理論値と実際のズレを追ったら、原因は為替レートじゃなかった話
以前、19年分のバックテストを振り返った記事の最後に、こう書きました。「今後は、この理論値のバックテストと実際の約定結果を突き合わせて、スリッページや手数料がどれだけ影響しているのかも確認していきたい」と。
あれからしばらく積み残しにしていたのですが、今日はその宿題に手をつけてみます。結論から言うと、想定していたのとはまったく違う犯人が見つかりました。
何を確かめたかったか
日経平均-NYダウ手法とTOPIX-S&P500手法は、どちらも理論値バックテストと実際のトレード記録を両方残しています。この二つ、当然ながら毎回ぴったり一致するわけではありません。理論値は日経平均やNYダウそのものの指数値を使って計算していますが、実際のトレードはCFDの気配値で約定するので、スプレッドや手数料の分だけ理屈上は目減りするはずです。
ズレがあること自体は織り込み済みでした。ただ、そのズレの正体を「スリッページや手数料だろう」と決めつけて、きちんと中身を見たことは一度もありませんでした。
さらにもう一つ、気になっていた点があります。理論値の円換算に使っているドル円レートは、その日の為替の終値です。一方、実際のトレードはNY市場が閉まる時間帯、日本時間で言えば明け方に決済しています。終値のタイミングと決済のタイミングがそもそもズレているので、この時点で理論値の円建て損益は少し不正確なのではないか。そう思っていました。
というわけで、まずこの為替レートの計算をやり直すところから始めることにしました。
まず、ドル円レートの計算をやり直した
理論値側のドル円レートを、その日の終値ではなく、同じ日に実際に約定した際の本物のコンバージョンレートに差し替えて、理論値の円建て損益を再計算しました。直近3か月分(2026年6〜8月、日経平均-NYダウ手法・TOPIX-S&P500手法それぞれ62トレード)で、理論値の売買が発生した日と、実際に約定した日は、幸い全日ぴったり一致していたので、この差し替えは迷いなくできました。
結果は拍子抜けするほど小さかった
意気込んで計算し直したのですが、結果はこうでした。
| 手法 | 理論値(終値レート・旧計算) | 理論値(実勢レートで再計算) | 差 |
|---|---|---|---|
| 日経平均-NYダウ手法 | 45,105円 | 45,118円 | +13円 |
| TOPIX-S&P500手法 | 28,580円 | 28,601円 | +22円 |
62トレードを積み上げても、差はどちらも数十円です。誤差というより、ほとんど丸め込みの範囲でした。正直なところ、これが本命の原因だと思っていたので、拍子抜けしました。終値と実勢レートでドル円が数時間分ズレていても、1日あたりのレート変動幅自体がそれほど大きくないので、積み上がったところで大した金額にはならない。考えてみれば当然なのですが、実際に数字で見るまでは確信が持てませんでした。
では、本当のズレはどこにあったのか
為替レートの問題ではないとなると、理論値(再計算後)と実際の結果には、まだ別の要因でズレが残っているはずです。並べてみました。
| 手法 | 理論値(再計算後) | 実際の約定結果 | 差 |
|---|---|---|---|
| 日経平均-NYダウ手法 | 45,118円 | 30,990円 | -14,128円 |
| TOPIX-S&P500手法 | 28,601円 | 51,950円 | +23,349円 |
ここで目を引くのは、二つの手法でズレの向きがまったく逆だということです。日経平均-NYダウ手法は理論値より実際の方が14,128円少ない。ところがTOPIX-S&P500手法は、理論値より実際の方が23,349円も多いのです。
スプレッドや手数料が主因なら、実際の成績は常に理論値より目減りするはずです。片方は目減りし、もう片方は逆に上振れしている時点で、「コストがかさんでいる」という単純な説明では足りないことになります。
中身を見たら、原因はスリッページでも手数料でもなかった
トレード単位まで分解してみました。理論値と実際の日々の損益を1件ずつ比べると、こうなっています。
| 手法 | 実際が理論値を上回った日 | 下回った日 | 1トレードあたりの平均乖離幅 | 理論値の1日あたり平均損益幅 |
|---|---|---|---|---|
| 日経平均-NYダウ手法 | 31日 | 31日 | 2,472円 | 4,016円 |
| TOPIX-S&P500手法 | 33日 | 29日 | 1,700円 | 5,416円 |
日経平均-NYダウ手法は、上回った日と下回った日がちょうど31対31。TOPIX-S&P500手法も33対29と、ほぼ五分五分です。もしスプレッドや手数料が原因なら、この勝ち負けはもっと偏るはずです。コストは常に自分に不利な方向にしか働かないからです。ところが実際には、理論値を上回る日と下回る日がほぼ同じ数だけある。これは「コストで削られている」のではなく、「毎回どちらに転ぶか分からないブレ」が起きている、と見た方が自然です。
しかも、その1回あたりの乖離幅は平均2,000円前後で、理論値の1日あたりの平均損益幅(4,000〜5,000円台)と比べても、決して小さい数字ではありません。手法の本来の収益力に対して、無視できない大きさのブレが毎回乗っている計算になります。
なぜこんなブレが起きるのか。理論値は日経225やNYダウの「始値」「終値」という、いわば一瞬の基準点を使って計算しています。一方、実際の注文は、その基準点ぴったりのタイミングで約定するわけではありません。NY市場が開いた直後、閉まる直前というのは、板が薄かったり、寄り付き・引けの気配が細かく動いたりする時間帯です。実際の約定履歴を見ても、新規の約定時刻は日本時間22時26分から22時32分あたり、決済は5時00分から5時07分あたりとばらついています。この数分のズレの間に価格が動けば、それだけで理論値との差になります。
つまり、私が想定していた「スプレッドや手数料でじわじわ削られている」という仮説は外れていました。実態は、始値・終値という一瞬の基準点と、数分ずれた実際の約定タイミングとの間で生じる、方向の定まらない価格のブレだったということです。
この検証期間について
今回は直近の2026年6〜8月、3か月分・62トレードに絞って検証しました。もっと長い期間を使えば数字の精度は上がりますが、今回確かめたかったのはあくまで「理論値と実際の約定は、どういう理由でどれくらいズレるのか」という構造の話です。長期間のデータを混ぜると、その時々の相場環境の違いまで一緒くたになってしまい、かえって話がぼやけると考え、まずは直近の一塊で見ることにしました。
おわりに
「理論値と実際のズレは、スリッページや手数料のせいだろう」と、検証前は思い込んでいました。ところが実際に数字を追ってみると、為替レートの計算方法もコストの蓄積も、主要な原因ではありませんでした。本当に効いていたのは、始値・終値という理論値の基準点と、実際の約定タイミングとの間で生じる、方向の定まらない数分単位の価格のブレです。
しかも、そのブレの向きは手法によって真逆に出ました。日経平均-NYダウ手法は実際の方が理論値より悪く、TOPIX-S&P500手法は実際の方が理論値より良い。「実際のトレードはバックテストより必ず悪くなる」という単純な話ではなかったわけです。
思い込みで終わらせず、数字を分解してみてよかったと思います。今後、実際のトレード記録がもっと積み上がったら、同じ検証を長い期間でもやり直して、この五分五分の傾向が続くのかどうか、確かめていきたいと思います。

